夜の10時、バス停でいつものようにバスを待っていると、見慣れたバスがやってきた。なれた手つきでICカードをカードリーダで読み取り、後ろの席に座った。

バスが走り出し、手持無沙汰の私は自然と窓の外に目をやると、夜の街並みが広がっていた。
駅前を離れ、だんだんと明かりが遠ざかる。暗い窓には自分の疲れた顔が映っていた。

ぼんやりと自分んの顔を眺めていると、不意にその顔が笑った。

あれ? 私笑ってる?

驚いて後ろにのけぞったというのに、窓の顔はニタニタと笑ったままだった。

なんだこれ…? そう思った瞬間、窓に向かって笑う顔が次々と現れ始めた。時速50km以上で走るにも関わらず、その顔は窓にぴったりとくっついてくる。

私は目をそらそうとするも、なぜか目をそむけることができない。笑う顔たちは次第に怖い表情へと変わっていき、私の心を恐怖で包み込んでいった。私はただ固まっていた。

どれくらい経ったのだろうか。そうしているうちに、バス停についた。運転手のアナウンスで我に返った私の身体はようやく動き出した。

バス停に降りた私の、足元に見知らぬ人物が倒れているのに気付いた。近づいてみると、それはバスの窓に写っていた顔をした男だった。

見渡すといつの間にか私は囲まれていた。それぞれの人には先程のバスの窓に現れた笑う顔が刻まれていた。驚きと恐怖が私を襲い、声を上げようとしたが、喉がつまって声を出すことができなかった。
私は足がすくみ、逃げ出すこともできず、ただ恐怖に震えることしかできなかった。

笑う顔たちは近づき、私を囲むようにして笑い続けた。その笑い声は耳に突き刺さり、私の心を狂わせるように響いた。私は必死に耐えようとしたが、限界が近づいていた。

すると、笑う顔たちは急に止み、消え去った。私は目を疑ったが、周囲には何も残っていなかった。全部消えていたのだ。

私はバス停を後にし、その後は私の身に同じことは起きなかったが、風の噂で私と同じ体験をしたものが色々な街にいるという。

次にそのバスに乗るのはあなたかもしれない…

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